現役診断士が「令和3年度 事例Ⅲ」を解いてみた
こんにちは。ぶらんちです。今回は令和3年度 事例Ⅲです。個人的に事例Ⅰ・Ⅱに比べても難易度は相当に高いと思います(ぜんぜん自信が無いです…)。それでは早速行ってみましょう!
全体構成
問題数は全部で4問です。事例Ⅲで特徴的な「120字」「140字」という少し長めの回答字数が設定されており、なかなかまとめづらいです。また各設問の切り分けが非常に難しいです。
昨年もなかなか苦労しましたが、今年は全ての設問にキレイに回答出来た方は少なかったのでは?と思います。
第1問
令和3年度事例Ⅲ 第1問(配点 20 点)
革製バッグ業界における C 社の⒜強みと⒝弱みを、それぞれ 40 字以内で述べよ。
設問分析
事例Ⅲの最初はだいたい「強み」と「弱み」の分析です。パターン化されているので楽勝ですね。(←後で泣きます)
与件分析
本来であれば事例Ⅱと同じく最後に書くのが良いのですが、ぶらんちはパターンが決まっている(と思い込んでいた)ので最初に取り掛かりました。
- 強み
①熟練職人により加工技術力が高く、②一貫生産体制であり、③自社ブランドを持つこと。(40字) - 弱み
①低価格品の受注が多く、②欠品や過剰在庫が発生し、③熟練職人の作業負荷が高いこと。(40字)
強みと言えば「技術力・品質が高い」「開発力がある」「一貫生産体制」が三種の神器です。今回もほぼ当てはまります。開発力だけは不安となっているので、代わりに自社ブランド保有を書きました。
弱みは該当するものが多すぎて、後回しにしましたが結局絞り切れず…。どれを抜き出せばよいものか相当悩みました。
C社は受注生産品も自社ブランドもほぼ同じ手間をかけて製造していますが、受注生産品は低価格品が主のため収益性が低いと想定されます。ということは全体のストーリーは「受注生産品の効率化・省力化を図って自社ブランド製品(高価格品)の売上比率を上げていこう」だと考えられます。それらを前提に考えても、弱みとして回答しても良さそうなキーワードが結構たくさんあります。
- 新製品の企画・開発経験が少ない
- 若手職人の技術習熟が進んでいない
- 熟練職人の高齢化
- 技術者の熟練度に依存した製造工程
正直どれが優先度が高いかはよく分かりません。強いて言えば、「強み」に開発力が書けなかったわけですから、「新製品の企画・開発経験が少ない」は弱みとして触れておくべきだったかもしれません…。
第2問
令和3年度事例Ⅲ 第2問(配点 30 点)
バッグメーカーからの受託生産品の製造工程について、効率化を進める上で必要な⒜課題 2 つを 20 字以内で挙げ、それぞれの⒝対応策を 80 字以内で助言せよ。
設問分析
昨年の事例Ⅲでもあった、課題と対応策で回答欄が分割されている設問です。
字数のコントロールが出来ないので、まとめるのが非常に大変です。事例Ⅲは設問条件のせいで年々難易度が上がっているように思います…。
さて、制約条件に「受注生産品の製造工程」とあるので、他の工程のことを書かないようにチェックした上で、与件文の情報を整理します。
与件分析
製造工程の事が与件文全体の半分以上を占めており、工程ごとではあるものの受注生産品と自社ブランド製品のことが入り乱れて記述されています。対応策は何となく浮かんでも、受注生産品の効率化のための施策として第2問で使ってしまって大丈夫なのか(他の設問と被らないか)だいぶ神経をすり減らしました。
- 課題
生産計画の見直しにより在庫の適正化を図る。(20字) - 対応策
対応策は各リーダーが情報を共有し、①受注予測の精度向上、②納期を踏まえた調達計画、③作業者の余力管理を行う。生産計画作成の頻度を上げ、小ロット化に対応する。(78字)
1つ目は在庫の適正化です。まず気になったのはリーダー間の連携が見られないということです。生産管理担当者は月1回の生産計画していますが、ロットサイズを大きめにして在庫が多い計画にしています。裁断工程リーダーは納期の長い資材を欠品させて生産計画に影響を出してしまっています。縫製工程リーダーは各作業者の熟練度で担当割振りを行っていますが、自社ブランド製品の製造・修理もあったりして特に熟練の職人の負荷が大きいです。
例えば生産計画を作成する段階で「今後納期の長い資材を使う受注が入りそうだから、今のうちに調達しておいて」とか、「そんなに受注が来るなら作業者の余力を確保しておこう」とか、情報共有できていればロットサイズも適正化できるし在庫も減らせると考えました。
要は「みんな情報共有して全体最適を図りましょう」というのが1つ目の回答の趣旨です。ただ「対応策」が小ロット化で終わっているため、この回答案では意図が伝わらないかもしれません。
- 課題
工程の見直しにより作業量の平準化を図る。(20字) - 対応策
対応策は①修理作業を検品工程で行い、②若手職人の担当を多くして分業化・標準化を進め、③部分縫製の機械化を検討する。縫製工程の負荷を軽減し作業量の平準化を図る。(79字)
2つ目の回答は作業量の平準化です。工程全体を見渡すと縫製工程が最も負荷が高く、特に熟練の職人は大変そうですね。なので縫製工程の負荷を下げる方法を考えました。
まず注目したのが検品工程です。製品の最終検査で品質にバラつきがある場合は「手直し作業も担当する」ということで、縫製技術者がいることが分かります。なので修理作業への対応は可能なんじゃないかと考えました。
また、受注生産品は低価格品が主なので、そもそも熟練の職人にやってもらうのは勿体ないですよね。ということで若手職人による分業体制や、熟練があまり要らない作業の機械化を回答要素としています。
…ただ、上記を実施することによる効果は熟練職人の余力確保なんですよね。「自社ブランド製品の拡大のための余力確保」と考えると、同じことを第3問でも書けてしまうんです。ここで使って良いものか…。
第3問
令和3年度事例Ⅲ 第3問(配点 20 点)
C 社社長は、自社ブランド製品の開発強化を検討している。この計画を実現するための製品企画面と生産面の課題を 120 字以内で述べよ。
設問分析
「製品企画面」なる新たな切り口が登場しました。事例Ⅱ(マーケティング)のような視点で回答しないように気をつけないとですね。「生産面」についても広すぎて何を書けば良いか絞り込みが大変そうです。
とりあえずは自社ブランド製品開発の現状を整理して、課題を抽出することになるかと思います。
与件分析
製品企画面
マーケティングの視点以外で答えようがないですね(汗)。そもそも自社ブランドを展開し製品デザイン部門もあるにも関わらず、「新製品の企画・開発経験が少ない」とはどういう状況なのか疑問です。
強いて言えば、新製品の企画はインターネットのオンライン販売情報の活用に留まっている点ですかね。もっと顧客ニーズや市場動向を把握して企画を立案していきましょう、くらいしか課題が見当たらなかったです。
生産面
自社ブランド製品の企画・開発コンセプトは「永く愛着を持って使えるバック」であり、製造には熟練の職人の力が不可欠です。現在は受注生産品の製造にも熟練の職人が関わっているので、自社ブランド製品に注力できる体制に持っていきたいです。ただ、第2問と論点が重複しているのが気になります…。
製品企画面は、オンライン販売情報だけでなくウェブサイトにお客様の声を投稿できるフォームを作成し、顧客要望にあった製品開発を行う。生産面は、受注生産品の効率化・省力化を図り、熟練職人の負荷を減らして自社ブランド製品開発に注力できる体制とする。(120字)
第4問
令和3年度事例Ⅲ 第4問(配点 30 点)
C 社社長は、直営店事業を展開する上で、自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出すか、それとも若手職人も含めた分業化と標準化を進めて自社ブランド製品のアイテム数を増やすか、悩んでいる。
C 社の経営資源を有効に活用し、最大の効果を得るためには、どちらを選び、どのように対応するべきか、中小企業診断士として 140 字以内で助言せよ。
設問分析
まず戦略を選択させて、その対応案を答えさせる設問です。過去問でも何度か登場していますが、論理的に回答できればどちらの戦略で回答しても問題ないと考えます。予備校によっては2パターン模範解答を出してくれると思いますよ。
与件分析
ぶらんちは「熟練職人の手作りで高級感を出す」で行きました。第2問で受注生産品の効率化のために「若手職人の分業体制」を使ってしまったというのもありますが、対応策が書きやすかったというが大きいです。
自社ブランド製品の企画・開発コンセプトは「永く愛着を持って使えるバック」であることや、手作り感のある高級仕様が注目されたことなどを考えると、熟練職人の技術で製造されることがブランド価値や差別化の源泉であり、高価格品たる所以であると考えます。
ここは素直に「自社ブランド製品を1人で作れるまでに若手職人を育てて、熟練の職人の退職までに生産能力の維持向上を図る」というのでいいんじゃないかな、と思います。
自社ブランド製品を熟練職人の手作りで高級感を出す戦略とし、強みを活かした高価格品で収益向上を図る。その為に若手職人に①熟練職人のOJT実施、②新製品の試作品製造、を通じて全体工程の経験を積ませ、技術習熟を進める。これにより熟練職人の退職に対応し、自社ブランド製品の生産能力を高める。(140字)
ふぞろいで採点してみた結果
本回答案でどのくらいの点数になるか、気になる方は以下記事をご参照ください。
まとめ
如何でしたでしょうか?
事例Ⅰ・Ⅱと打って変わって、迷いが回答に出てしまいました(参考にならずすみません)。試験当日の雰囲気の中で本事例を解いた受験生は本当に大変だったと思います。よく「他の受験生が書きそうなことを書け」「普通のことを普通に書け」なんて予備校では教えられましたが、試験中は何が普通の回答かなんて分かんないですもんね。焦りも出ると思います。
ただ解き終わって感じたことは、主旨さえ押さえておけば多少切り分けが間違っていても加点されるのではないか?ということです。今回の設問は回答がバラけそうということは作問者も想像がついたと思います。
もしかすると今回の事例Ⅲは、現場対応力が試されたのかもしれませんね。