現役診断士が「令和3年度 事例Ⅰ」を解いてみた
こんにちは。ぶらんちです。2次筆記試験が終了して数日経ちましたが、落ち着きましたでしょうか?Twitterでみる限り今年は相当に難易度が高かったようですね。
中小企業診断協会のHPに試験問題がアップされましたので、さっそく解いてみました。
問題構成と配点
問題は全部で5問、配点も全て20点ずつということで、標準的な構成ですね。設問は与件文の時系列に沿っているので、パズルのように組み合わせに悩む、ということはなかったです。
第1問
令和3年度事例Ⅰ 第1問(20点)
2 代目経営者は、なぜ印刷工場を持たないファブレス化を行ったと考えられるか、100 字以内で述べよ。
設問分析
ファブレスとは工場(fabrication facilities)を持たずに(less)製造業を行う、企業もしくはビジネスモデルのことです。「ファブレス化」となっているので、もともとは印刷工場などを持っていたのに手放したってことが分かります。
手放す理由はいくつもありますが、想定されるのは以下ではないでしょうか。
- 新製品開発に資源を集中したい
- 市場の変化に柔軟に対応できるようにしたい
- 固定費を抑えたい
上記のうち、事例Ⅰで回答要素になりそうなのは①と②です。上記を念頭に与件文を読みます。
与件分析
与件文にはやたら「分業」という単語が登場します。今回のA社は分業体制により強みを発揮してきた企業なんでしょうね。
創業時は事務用品の分野において、事務用品メーカーの印刷下請と特殊なビジネスフォームの印刷加工を主な業務としていた。(中略)製版から印刷、加工までの各工程は、専門的な技能・技術によって支えられ、社内、社外の職人の分業によって行われてきた。
創業時の時点で既に専門特化した外部の職人を活用していたことが分かります。「特殊なビジネスフォーム」なんて書いてある当たり、外部の協力を得て「強み」とすることはA社にとって成功体験だった、と読み取っていいと思います。つまり、創業時の成功体験を発展させて「ファブレス化→サプライチェーンの構築」という流れに至ったってことです。
では、ファブレス化の前後で何があったかというと、技術革新による市場環境の変化がたくさん起こっています。高度は専門的技術や知識は不要になり、だんだんと安価な小ロット印刷サービスに需要が置き換わっていってますよね。
一方で高品質・高精度な印刷技術を必要とする分野も残っています。「なら狙うならここしかない!」となったわけですね。
印刷機を持たない事業へと転換することで、①低価格化、小ロット化など技術革新に伴う変化に柔軟に対応できる、②専門特化された協力会社との分業体制で顧客の細かいニーズを獲得できる、と考えたためである。(97字)
第2問
令和3年度事例Ⅰ 第2問(20点)
2 代目経営者は、なぜ A 社での経験のなかった 3 代目にデザイン部門の統括を任せたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
設問分析
「A社での経験のなかった」とわざわざ書いてあるので、3代目はA社では得られない強みを外部で身に着けた人物と考えられます。そして、その強みは「デザイン」におそらく関係するんでしょうね。
また、いきなり統括を任せているので、幹部候補として入社しているのは間違いなさそうです。ということは経営層の育成というのも回答候補です。
与件分析
また、広告代理店に勤務していた 3 代目が加わると、(中略) 前職においてデザイナー、アーティストとの共同プロジェクトに参画していた人脈を生かし、ウェブデザイナーを 2 名採用した。こうした社内の人材の変化を受けて、紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ、ウェブ制作、コンテンツ制作を通じて、地域内の中小企業が大半を占める既存の顧客に向けた広告制作へと業務を拡大した。
3代目は広告制作に強みを持つ人物でした。人脈を活かして、これまでのA社には居なかったタイプの人材を採用し、事業分野の拡大につなげています。2代目はこうした流れになることを期待して、デザイン部門を社内に発足させ3代目を据えたのでしょう。
では何故「統括」なのか?これは与件文にヒントはないので、設問分析で想定したことをそのまま書きます。
①3代目が前職での経験や培った人脈を活かして事業展開を行い、紙媒体に依存しない新たな分野への市場拡大を図るため、②統括業務を通じて管理職の経験を積ませ、将来の事業承継を円滑に進めるため、である。(97字)
第3問
令和3年度事例Ⅰ 第3問
A 社は、現経営者である 3 代目が、印刷業から広告制作業へと事業ドメインを拡大させていった。これは、同社にどのような利点と欠点をもたらしたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
設問分析
印刷業から広告制作業へ事業ドメインと拡大したということで、多角化に関する利点と欠点を問われていますね。多角化と言えば利点として経営リスク分散・シナジー、欠点として経営資源分散が頭に浮かんだのではないでしょうか。
あとは関連多角化なのか無関連多角化なのかは気になりますね。
与件分析
利点
A社は印刷業の分業体制を広告制作業でも行っており、関連多角化に当たると思われます。利点について与件文に明確には書いていないので、多角化の利点である経営リスク分散とシナジーについて考えます。
広告制作業は新たな事業の案件が獲得できておらず、売上回復とはなっていないです。ということは、経営リスク分散とはなかなか書きづらいなぁと思います。一方で、シナジーの方はどうでしょうか?
新規のデザイン部門と既存の印刷部門はともに、サプライチェーンの管理を担当し、デザインの一部と、製版、印刷、加工に至る全ての工程におけるオペレーションは外部に依存している。必要に応じて外部のフォトグラファーやイラストレーター、コピーライター、製版業者、印刷職人との協力関係を構築することで、
デザイン部門と既存の印刷部門は同じくサプライチェーンの管理を行っており、ノウハウの共有が出来そうですね。また、2代目の時は版下製作工程や印刷工程を外注していたのに対し、協力関係先が増えています。なのでシナジーは回答に入れた方が良さそうです。
欠点
しかしながら、新たな事業の案件を獲得していくことは難しかった。とりわけ、こうした新たな事業を既存の顧客に訴求するためには、新規の需要を創造していくことが求められた。また、中小企業向け広告制作の分野においては、既に数多くの競合他社が存在しているため、非常に厳しい競争環境であった。さらに新規の市場を開拓するための営業に資源を投入することも難しいために、印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している。
営業に資源を投入できないというのは、経営資源の分散を示唆していると考えられます。広告制作業は競争に厳しい環境なので、売上獲得には新規需要の創造や新規市場の開拓が必要なのに、A社内でノウハウを蓄積したり営業活動を行う体制が確保できないということです。
利点は広告制作業を通じてサプライチェーンが強化され、印刷業のニーズ対応力向上といったシナジーが発揮された点である。欠点は経営資源の分散により営業が出来ず、厳しい競争で新規事業獲得が難しい点である。(98字)
第4問
令和3年度事例Ⅰ 第4問
2 代目経営者は、プロジェクトごとに社内と外部の協力企業とが連携する形で事業を展開してきたが、 3 代目は、 2 代目が構築してきた外部企業との関係をいかに発展させていくことが求められるか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
設問分析
外部企業との関係をどう発展させていくかという抽象的でとても難しい設問です。紐解くカギは「プロジェクトごとに」という所くらいでしょうか。「プロジェクト=単発」と考えると継続的な関係を築くことが求められるのかもしれません。
与件分析
新規のデザイン部門と既存の印刷部門はともに、サプライチェーンの管理を担当し、デザインの一部と、製版、印刷、加工に至る全ての工程におけるオペレーションは外部に依存している。
何度か出てきましたがA社は外部のサプライチェーンに強みを持つ企業です。専門特化された協力関係先がたくさんあります。ただ現在はあくまで管理しているだけでオペレーションは外部に依存しています。これを発展させると考えると、共同開発のように一緒に事業を推進していくイメージになるかと思います。
では、どんなことを推進するのが良いでしょうか?
しかしながら、新たな事業の案件を獲得していくことは難しかった。とりわけ、こうした新たな事業を既存の顧客に訴求するためには、新規の需要を創造していくことが求められた。
先ほど第3問にあったように、既存顧客から新たな事業案件を受注するためには新規の需要を創造していくことが求められています。他に具体的な課題は見当たらないことから、そのまま回答とするのが良いのかと思います。
外部の協力企業との関係をプロジェクトごとではなく継続的なものに発展させていく。専門特化された企業と共同で企画立案を行うことで、新規の需要を創造し、既存顧客からの新たな事業案件を獲得する。(93字)
第5問
令和3年度事例Ⅰ 第5問(20点)
新規事業であるデザイン部門を担う 3 代目が、印刷業を含めた全社の経営を引き継ぎ、これから事業を存続させていく上での長期的な課題とその解決策について 100 字以内で述べよ。
設問分析
新規事業を統括している3代目が全社の経営を引き継ぐということで、デザイン部門で得たノウハウを印刷業に活かすとか、与件文の中で出てきた課題を組織の流動性を高めて対応するとか、そんなことでしょうか。
正直、設問文からはなかなか回答の方向性が絞りずらい設問です。
与件分析
A社の経営環境をもう一度整理してみましょう。
第1問から第4問までで既存顧客への対応は出てきていますが、新規顧客に対する打ち手が出てきていません。ただ、どちらの事業においても営業体制の強化が必要ですぐに出来そうになく、長期的な課題と言えそうです。
そのため、「既存顧客で安定的な売上を確保しつつ、営業人材を育成して新規開拓を進める」というのが回答の方向性になるかと思います。
課題は、新たな市場を開拓して売上を回復させることである。解決策は①外部企業との関係を強化して顧客ニーズへの対応力を向上し、②営業人材を育成して新たな事業案件の獲得力を強化する、ことである。(94字)
ふぞろいで採点してみた結果
本回答案でどのくらいの点数になるか、気になる方は以下記事をご参照ください。
まとめ
如何でしたでしょうか?
一見するとそんなに難しい問題ではないのですが(例年と同じくらい)、いざ解いてみると回答にまとめるのが大変だな、という印象でした。全体的に抽象度が高いので、正直これで良いのかよく分かりません…。
一応論理破綻はしていない(と思う)ので、それなりに加点はされるのではないかと思っています。まあ、あくまで参考ということで…(汗)。