現役診断士が「令和4年度 事例Ⅱ」を解いてみた

こんにちは。ぶらんちです。今回は令和4年度 事例Ⅱを解いてみました。早速行ってみましょう!
全体構成
問題数は全部で4問です。150字の問題が2問(しかも30点)とかなり変則的でした。また個人的に対応しづらい設問が多く、昨年に比べるとかなり難しかったのではないかと思います。
第1問
令和4年度事例Ⅱ 第1問(配点 30 点)
B 社の現状について、 3 C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から 150 字以内で述べよ。
設問分析
誰ですかね?SWOT分析が恒常化するとか言ってた人は!…すみません(汗

平成30年度事例Ⅱ以来の3C分析問題です。顧客・競合・自社の観点を50字ずつまとめるのがよいです。「B社の現状」なので時制には注意です。
与件分析
ここは与件文を満遍なく見渡して、該当する記述を抜き出していけばOKです。B社は食肉卸売と直営小売店とネット販売を行っており、それぞれ顧客と競合が違います。ネット販売は今はお試しという感じですが、第4問でオンライン販売チャネル開拓に乗り出すことを考えると、回答の範囲に含めるのが良いと思います。
顧客は県内や隣接県のホテル、旅館、飲食店及び直営小売店に訪れるB社周辺の現役世代の家族である。競合はスーパーと取引する大手食肉卸売業者、ネット販売における食肉販売業者である。自社は商品のクオリティの高く、食肉加工やコンサルテーション等顧客ニーズにも対応しているが、売り上げが他社の動向に左右されている。(150字)
3C分析の「自社」は強みと弱みの両面で書くのが基本です。覚えておきましょう!
第2問
令和4年度事例Ⅱ 第2問(配点 20 点)
B 社は、X 県から「地元事業者と協業し、第一次産業を再活性化させ、県の社会経済活動の促進に力を貸してほしい」という依頼を受け、B 社の製造加工技術力を生かして新たな商品開発を行うことにした。商品コンセプトと販路を明確にして、100 字以内で助言せよ。
設問分析
X県の要望が重い(笑)。B社は地元でも相当な有力企業なのでしょうか…?
それはさておき、回答要素は以下の通りです。
- どの地元事業者と協業するか
- 再活性化させる第一次産業とは
- どのように県の社会経済活動を促進するか
- 商品コンセプト
- 販路
おそらく「地元の生産者と、地元の名産品を使った新商品を、地域活性化につながるコンセプトで販売」するんだと思います。それらをベースに、与件文にどんなヒントがあるかで肉付けしていきます。
与件分析
第 1 に、新たな取引先の開拓である。従来の百貨店やスーパーとの取引に加え、県内や隣接県のホテル・旅館、飲食店などに活路を見出した。B 社のある X 県は、都市部と自然豊かな場所がともに存在し、高速道路で行き来できる。また、野菜・果物・畜産などの農業、漁業、機械や食品などの工業、大型ショッピングセンターなどの商業、観光サービス業がバランスよく発展している。山の幸、海の幸の特産品にも恵まれ、大規模な集客施設もあれば、四季それぞれに見どころのある観光エリアもあり、新たな取引先探しには事欠かなかった。
第 2 に、自社工場を新設し、食肉加工品製造も行えるようにした。高い技術力を有する職人を B 社に招き入れ、良質でおいしい食肉加工品を製造できる体制を整えた。これによって、B 社は最高級のハムやソーセージ、ローストビーフなどの食肉加工品を自社ブランドで開発できるようになった。単品販売もできるうえ、詰め合わせれば贈答品にもなり、これら食肉加工品は直営小売店や高速道路の土産物店、道の駅などで販売している。また、取引先のニーズに応じて、相手先ブランドでの食肉加工品製造を請け負うことも可能になった。
X県は都市部と自然豊かな場所がともに存在し、農業、漁業、工業、商業、観光サービス業がバランスよく発展しています(素晴らしい!)。今回のX県からの依頼は「第一次産業の再活性化」なので、協業先は地元の農業・漁業者で、山の幸、海の幸を使った加工品と想定されます。
商品コンセプトですが、第8段落でブランドの話が2回も出てきているので、ブランド戦略が想起されます。なのでここは地域ブランド化で差別化を図り、商業、観光サービス業を販路に活用する、と考えました。
県内の農業、漁業者と協業し、山の幸、海の幸を使った加工品を開発する。商品コンセプトは詰め合わせの贈答品・土産品とし、地域ブランド化して差別化を図る。販路は県内の観光エリアや大規模な商業・集客施設とする。(100字)
第3問
令和4年度事例Ⅱ 第3問(配点 20 点)
アフターコロナを見据えて、B 社は直営の食肉小売店の販売力強化を図りたいと考えている。どのような施策をとればよいか、顧客ターゲットと品揃えの観点から 100字以内で助言せよ。
設問分析
国家試験で「アフターコロナを見据えて」なんて文言が出てくるのはおそらく中小企業診断士試験くらいですよね。それだけ世の中の流れに敏感でなくてはならない、ということでしょうか。
話を戻します。設問文から、与件文から見つける必要がある情報はどんなものが考えられるでしょうか。
- (この世界線で)アフターコロナにどんな機会・脅威が想定されているか
- B社食肉小売店の強みと弱み
- 販売力に関する現状の課題
- 顧客ターゲット
- 品揃え
アフターコロナについては、現実世界ではなく「この世界線で」という所が重要ポイントです。あくまで出題上の設定であり、ここを外すとアイディア回答に走ってしまう可能性があるので注意が必要です。

与件分析
B 社は X 県の大都市近郊に立地する。高速道路のインターチェンジからも近く、車の利便性は良いエリアだ。B 社の周辺には、大規模な田畑を所有する古くからの住民もいるが、工業団地があるため、現役世代が家族で居住する集合住宅も多い。
B 社は、百貨店向けには贈答用を含めた最高級品質の食肉や食肉加工品の販売を行い、直営の食肉小売店では対面接客による買物客のニーズに合わせた販売を行い、スーパー向けには食卓で日常使いしやすいカット肉やスライス肉などの販売を行っており、さまざまな食肉の消費機会に対応できる事業者である。
B 社にとってせめてもの救いは、直営の食肉小売店であった。コロナ禍の巣ごもり需要拡大の影響で、開業以来、とくに何の手も打って来なかった食肉小売店での販売だけが急上昇した。料理の楽しさに目覚めた客や、作りたての揚げ物を買い求める客が、食肉専門店の魅力に気づいて足を運ぶようになった結果だった。
B 社社長はこの 2 年以上、コロナ禍で長期にわたって取引が激減しているホテル・旅館や、続々と閉店する飲食店を目の当たりにしてきた。もちろん B 社の販売先の多くはまだ残っているが、コロナ収束後、これらの事業者がすぐにコロナ前の水準で取引してくれるようになるとはとても思えずにいる。
まずアフターコロナに想定されているのは、「ホテル・旅館・飲食店との取引はすぐには回復しない」ということです。つまり現状せめてもの救いとなっている直営の食肉小売店の業績拡大がカギを握っていると考えているんですね。
ということで、食肉小売店の状況を細かく見ていきましょう。
- B社周辺には現役世代が家族で移住している
- 現状は料理の楽しさに目覚めた客や作りたての揚げ物を買い求める客が足を運んでいる
- 対面接客が強み
これらをまとめると以下のような回答になります。
ターゲットは料理の楽しさに目覚めた現役世代の家族とする。品揃えは、日常使いしやすいカット肉やスライス肉や、作りたての揚げ物、総菜とする。対面接客の強みを活かし、買物客のニーズに合わせた提案販売を行う。(100字)
…ただ、これが直営小売店の販売力強化になっているかイマイチ分かりませんでした。ターゲットは今来てくれている顧客層で、対面接客も既に行っていますよね…。品揃えも変わらないような…。
「今日の献立」のようなチラシやポスター・POPなんかを作り、それらに合わせて高度な加工を施した商品や総菜を品揃えする、というのも考えたのですが、「献立の考案にニーズがある」っていうのは第4問の設問文で出てくるんですよね。
う~ん、この問題は何が正解かすごく興味があります。
第4問
令和4年度事例Ⅱ 第4問(配点 30 点)
B 社社長は、新規事業として、最終消費者へのオンライン販売チャネル開拓に乗り出すつもりである。ただし、コロナ禍で試した大手ネットショッピングモールでの自社単独の食肉販売がうまくいかなかった経験から、オンライン販売事業者との協業によって行うことを考えている。
中小企業診断士に相談したところ、B 社社長は日本政策金融公庫『消費者動向調査』(令和 4 年 1 月)を示された。これによると、家庭での食に関する家事で最も簡便化したい工程は「献立の考案」(29.4 %)、「調理」(19.8 %)、「後片付け」(18.2 %)、「食材の購入」(10.7 %)、「容器等のごみの処分」(8.5 %)、「盛り付け・配膳」(3.3 %)、「特にない」(10.3 %)とのことであった。
B 社はどのようなオンライン販売事業者と協業すべきか、また、この際、協業が長期的に成功するために B 社はどのような提案を行うべきか、150 字以内で助言せよ。
設問分析
設問文が長いです(汗)。
よく見ると、例年であれば図表となるような内容が延々と記載されています。ちなみに実際の日本政策金融公庫『消費者動向調査』(令和 4 年 1 月)はコチラです。
家庭での食に関する家事で最も簡便化したい工程が示されているので、それら要望に応えるサービスを提供したいです。また、「コロナ禍で試した大手ネットショッピングモールでの自社単独の食肉販売がうまくいかなかった経験」を分析し、苦い経験を克服するものでなくてはなりません。
本設問で注意したいのが、「協業が長期的に成功するためにはB社はどのような提案を行うべきか」となっている点です。「あなたが」ではなく「B社が」です。協業に際してB社がオンライン販売事業者に提案した方がよいことを回答する設問なので、ここを読み間違えると全く見当違いのことを書いてしまう危険性があります。
ちなみに回答すべきサービスは与件文を読まなくても想起できたと思います。
世の中便利になりましたよね。
与件分析
これと関連して第 3 に、取引先へのコンサルテーションも手がけるようになった。自社工場設立以前、B 社は食肉販売を主な事業としていたため、取り扱う商品は標準的なカットやスライスを施した食肉であり、高度な加工を必要としなかった。しかし、ホテル・旅館や飲食店との取引の場合、販売先の調理の都合に合わせた形状のカットや、指定された個数でのパッキング、途中工程までの調理済み商品が求められるなど、顧客ニーズにきめ細かく合わせることが必要となってきた。B 社は自社工場という加工の場をもつことによって、個々の顧客の要望に応じた納品が可能になった。最近では、飲食店に対してメニュー提案を行ったり、その半加工を請け負ったりすることも増えている。
東京オリンピック・パラリンピックのために積み増した冷凍在庫をさばくため、B 社は大手ネットショッピングモールに出店し、焼肉用やステーキ用として冷凍肉の販売も試してみた。しかし、コロナ禍で同じことを考えた食肉販売業者は多く、B 社紹介ページはネット上で埋もれ、消費者の目にはほとんど留まらないようだった。
「コロナ禍で試した大手ネットショッピングモールでの自社単独の食肉販売がうまくいかなかった」理由は、競合が多く差別化が図れなかったためと考えられます。みんなが模倣できる簡単な方法では上手くいかないということですね。
サブリミナル的に広告を配置していますが(笑)、B社商品をそのまま販売するのではなく、「献立の考案」「調理」「後片付け」などの家事の簡便化という付加価値で差別化が図れるサービスと言えば「ミールキット」です。予めカットされた食材とレシピを宅配するサービスで、バランスの取れた食事を簡単に作れる人気のサービスです。
こういったサービスが世の中にあることを知らなかった場合、本問を解くのに相当時間がかかったと思います。逆に知っていればすぐに方向性は固まったのではないかと思います。
では、B社がオンライン販売業者に提案すべきことは何でしょうか。
B社はコンサルテーションを手掛けており、飲食店へのメニュー提案を行ったり、その半加工を請け負ったりもしています。これらをオンライン販売業者にも提案することで、お互いの強みを活かしたより良いサービスになると考えられます。
定期的に献立提案や食材セットを届けるオンライン販売事業者と協業すべきである。B社にはオンライン販売業者に対し、①新たな献立の考案、②食材の半加工を請け負うことを提案し、シナジーを発揮して付加価値を向上させるよう助言する。協業を通じ最終消費者への販売チャネルを開拓し、安定収益で長期的な成功を図る。(148字)
まとめ
如何でしたでしょうか?
昨年度は与件文の情報を組み合わせることで回答することが可能でしたが、令和4年度は与件文だけでなく、類推や前提知識も問われる構成だったのではないかと思います。
このような構成の場合は、本試験当日80分の間にひらめかないと合格点に届くことが難しく、普段から経済ニュースに目を光らせておくことも重要かもしれません。
