現役診断士が「令和4年度 事例Ⅰ」を解いてみた
こんにちは。ぶらんちです。2次筆記試験が終了してからだいぶ経ちましたが、落ち着きましたでしょうか?中小企業診断協会のHPに試験問題がアップされましたので、わたくしも解いてみました。
ちなみに解き方は以下プロセスを前提としてますので、ご参考まで。
問題構成と配点
問題は全部で5問ですが、第4問が少し変則的でした(後述)。各予備校の総評では「強みと弱みをストレートに聞くなんて!」「助言が4つの珍しい構成!」といった感じで、昨年よりも難化とされていましたが、ぶらんちが解いた印象では「標準的な難易度」じゃないかと思います。
第1問
令和4年度事例Ⅰ 第1問(20点)
A 社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。
設問分析
まずは時制をチェック。「株式会社化(法人化)する以前」とあるので、法人化した後に獲得した強みや、表面化した弱みは回答の対象外です。
100字なので、それぞれ3つずつくらい挙げられるとバランスがとれそうです。
与件分析
8段落目で株式会社化(法人化)の記述があるので、それより前から強みと弱みを拾っていきます。私の場合はどの事例でもSWOT分析が大事と考えているので、与件文には「S」とか「W」とか書きまくります。
そうすると、だいたいみんな同じ回答に辿り着くのではないかと思います。差がつくとすれば、「依存割合が高い」のような時制を外した回答をしてしまった場合ではないでしょうか。
強みは①農業経験豊富な従業員、②最終消費者が求めるこだわりの野菜栽培、③有機JASとJGAP認証、である。弱みは①従業員間で明確な役割分担がない、②需給調整が出来ていない、③定着率が低い、ことである。(100字)
第2問
令和4年度事例Ⅰ 第2問(20点)
A 社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
設問分析
予備校の総評に「第2問から人事施策が聞かれるなんて!」と書いてあるのを見かけましたが、出題される順番で乱されてしまうのはさすがに手順をルーティン化しすぎではないかと思います。別に「第5問でしか人事施策は出題しません」なんてルール無いので、気にせず分析すれば良いと思います。
とはいえ手順も大事。新規就農者の獲得ということで「採用」、定着率の改善と言えば「配置」「能力開発」「評価」「報酬」がキーワードです。与件文にそれらしいことが書いていないか確認します。
与件分析
他方、業容の拡大に伴い、経営が複雑化してきた。現経営者は職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった。また、A 社ではパート従業員だけではなく、家族や親族以外の正社員採用も行い従業員数も増加していた。しかし、従業員間で明確な役割分担がなされていなかった。そこに、需給調整の問題も生じてきた。作物は天候の影響を受ける。また収穫時期の違いなどによる季節的な繁閑がある。そのため、A社では、繁忙期は従業員総出でも人手が足りず、パート従業員をスポットで雇用して対応する一方、閑散期は逆に人手が余るような状況であった。それに加え、主要な取引先からは、安定した品質と出荷が求められていた。
さらに、従業員の定着が悪く、新規就農者を確保することが難しかった。農業の仕事は、なかなか定時出社・定時退社で完結できる仕事ではない。台風などの際には、休日であっても突発的な対応が求められる。また、新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった。A 社では、農業経験者だけではなく、農業未経験者にも中途採用の門戸を開いていたが、帰属意識の高い従業員を確保することが難しかった。県の農業大学校の卒業生など新卒採用も始めたが、長く働き続けてくれる人材の確保は容易ではなかった。
なぜ「定着率が低いか」を一言でいうと、労働環境が劣悪で帰属意識が高まらないからです。
- 明確な役割分担がなされていない
- 需給調整できていない
- 定時出社・定時退社で完結できない(突発対応もある)
- 地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくれない
ということは、上記の問題をクリアできれば定着率の向上につながりそうです。一方で、「労働期間が長い人は、なぜ続けていけるのだろう?」という疑問が湧きます。与件文には歴の長い従業員は登場しませんが、一人めちゃくちゃ農業に熱心な人がいます。そう、A社長です。
A 社は、戦前より代々、家族経営で水稲農家を営んできた。69 歳になる現経営者は、幼い頃から農作業に触れてきた体験を通じて農業の面白さを自覚し、父親からは農業のイロハを叩き込まれた。
農作業に触れることで「農業の面白さ」を自覚してもらえれば、これもまた帰属意識の向上、及び定着率の改善につながりそうですね。
必要な施策は①教育制度を整備して役割分担を明確化、②繁閑及び突発対応を考慮したシフト制の導入、③地域の農業関係者との交流イベント開催、である。労働環境改善により農業の面白さを自覚させ、帰属意識を高める。(100字)
第3問
令和4年度事例Ⅰ 第3問(20点)
A 社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
設問分析
設問分析の時点では、「大手中食業者」がA社にとってどんな存在なのかが分からないものの、「大手」の時点で売上高や技術面で依存している可能性が高いです。
とはいえ断定はできないので、与件文から「大手中食業者とはどんな存在なのか」「課題はあるのか」「取引関係を変えることで改善できないか」といったことを意識して読みます。
与件分析
A 社は、有機野菜の販売業者から事業を引き継いだ際、運よく大手中食業者と直接取引する機会を得た。この取引は、A 社に安定的な収益をもたらすことになった。大手中食業者からの要求水準は厳しかったものの、A 社は同社との取引を通じて対応能力を蓄積することができた。大手中食業者からの信頼も増し、売上高の依存割合が年々増加していった。このコロナ禍にあっても、大手中食業者以外の販売先の売上高は減少したが、デリバリー需要を背景に同社からの売上高は堅調であった。他方、ここ数年、A 社では、大手中食業者への対応に忙殺されるあまり、新たな品種の生産が思うようにできていない状況であった。
設問分析の通り、大手中食業者とは「安定的な収益」「対応能力の蓄積」ということで、依存した取引関係であることが見て取れます。また、そのことで新たな品種の生産に挑戦する機会を逸しているということが分かります。
自社工場では、外部取引先からパン生地を調達し、自社栽培の新鮮で旬の野菜(トマトやレタスなど)やフルーツを使ったサンドイッチや総菜商品などを製造し、既存の大手中食業者を含めた複数の業者に卸している。作り手や栽培方法が見える化された商品は、食の安全志向の高まりもあり人気を博している。
この頃、A社は野菜の栽培だけでなく直営店や食品加工の分野に展開を始めています。自社商品は「食の安全志向の高まり」という機会を捉えて、既存の大手中食業者を含めた複数の業者にもメリットをもたらしているようです。
上記を踏まえると、健康志向を訴求する新商品開発をA社が積極的に提案し、大手事業者とWin-Winの取引関係に発展させるのが良いと考えられます。新商品開発を通じてA社は新たな品種の生産にも着手できますし、大手中食業者にとっては商品力が向上して売上拡大が期待できます。複数の業者との取引も増やせればベストですね。
要求に応えるだけでなく提案も出来る良好な取引関係を築くべきである。具体的には①見える化された食品加工品の新商品開発を提案し、②新たな品種の生産体制を確保、③複数の業者との取引を増やし依存割合を下げる。(100字)
…「対等な取引関係」とすればもっと言いたいことが書けましたね(汗)
第4問(設問1)
令和4年度事例Ⅰ 第4問(40点)
A 社の今後の戦略展開にあたって、以下の設問に答えよ。
(設問 1 )
A 社は今後の事業展開にあたり、どのような組織構造を構築すべきか、中小企業診断士として 50 字以内で助言せよ。
設問分析
「組織構造」って古い過去問ではよく登場したのですが、原点回帰といった感じでしょうか。機能別組織とか事業部制組織といった直接的なものなのか、与件文に沿って組織構造を答えれば良いのか判断がつきません。ただ、50字以内と短いので、与件文にある「今後の事業展開」から推察される組織をズバッと答えるものと想定されます。
与件分析
他方、業容の拡大に伴い、経営が複雑化してきた。現経営者は職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった。また、A 社ではパート従業員だけではなく、家族や親族以外の正社員採用も行い従業員数も増加していた。しかし、従業員間で明確な役割分担がなされていなかった。
ここ数年、A 社では、直営店や食品加工の分野に展開を行っている。これらの業務は、常務が中心となって 5 名の生産に従事する若手従業員と 5 名のパート従業員が兼任の形で従事している。
この分野は、着実に売上高を伸ばしてきたが、一方で、人手不足が顕著になってきており、生産を兼務する従業員だけでは対応できなくなりつつあった。A 社は、今後も地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている。
A社はこれまで野菜栽培が中心でしたが、近年盛り上がっているのは「直営店」と「食品加工」事業です。これまで野菜栽培の従業員が兼務する形で行ってきましたが、人手不足が顕著となっています。
と、ここまで読むと「事業部制組織が良いのでは?」と思ってしまうかもしれませんが、事業部制組織は事業部ごとに全機能をもつ組織体系ですので、例えば「栽培」「直営店」「食品加工」それぞれに営業・生産管理・購買といった機能を重複して持たせることとなります。従業員がパート含めて40名の会社では難しく、規模的には機能別組織がベストだと思います。
栽培、直営店、食品加工の機能別組織とし、農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦できる組織構造とする。(50字)
第4問(設問2)
令和4年度事例Ⅰ 第4問
(設問2)
現経営者は、今後 5 年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
設問分析
最後は事業承継絡みということで、近年中小企業診断士に求められる役割を見事に表現しています。「今後5年間」が長いのか短いのか分かりませんが、後継者の想いに沿った組織を作りたいということが分かります。
なので「後継者とはどんな人物か」「後継者の経営ビジョンは?」「人員配置の問題点は?」などがキーワードになってくるかと思います。
与件分析
現在、直営店は、昨年入社した常務の娘(A 社後継者)が担当している。後継者は、大学卒業後、一貫して飲食サービス業で店舗マネジメントや商品開発の業務に従事してきた。農業については門外漢であったものの、現経営者や常務からの説得もあり、40 歳の時に入社した。直営店では、サンドイッチや総菜商品、地元菓子メーカーと共同開発した洋菓子に加え、後継者が若手従業員からの提案を上手に取り入れ、搾りたてのトマトジュース、苺ジャムなどの商品を開発し、販売にこぎ着けている。現在、直営店は A 社敷地の一部に設置されている。大きな駐車場を併設しており、地元の顧客に加え、噂を聞きつけて買い付けにくる都市部の顧客も取り込んでいる。また最近、若手従業員の提案で、オープンカフェ形式による飲食サービス(直営店に併設)を提供するようになった。消費者との接点ができることで、少しずつではあるが A 社は自社商品に関する消費者の声を取得できるようになった。
A社の後継者は前職の経験から店舗マネジメントや商品開発に強みを持つ人物です。また若手従業員の提案を上手に取り入れる等、トップとしての素質もあることが伺えます。ですが農業については門外漢ということで、これまでの実績も直営店の事業に限られます。
前設問の通り「地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦」がA社のビジョンなので、後継者には農業や食品加工にも精通してリーダーシップを発揮してほしいところです。ということで後継者には全社を俯瞰的に見れる立場になってもらい、経営者としての能力を育成するのが良いかと思います。
この分野は、着実に売上高を伸ばしてきたが、一方で、人手不足が顕著になってきており、生産を兼務する従業員だけでは対応できなくなりつつあった。
では人員配置についてはどうでしょうか。先の通り新たな挑戦分野である「直営店」と「食品加工」は兼務する従業員だけでは対応できなくなっており、専任化は重要なキーワードと思います。
また、若手従業員からの提案で新商品開発やオープンカフェ形式の新サービスなど事業展開できており、若手への権限移譲も有効な提案だと考えます。
後継者を役員に就任させ、全社管理について権限移譲し経営能力を育成する。人員配置は、直営店や食品加工を専任化して人手不足を解消し、若手従業員にも権限を委譲して消費者の声に応える新商品開発力の向上を図る。(100字)
まとめ
如何でしたでしょうか?
一見するとそんなに難しくないのですが、どれも字数制限に合わせて回答をまとめるのが大変といった印象です。そういう意味でも、昨年とあんまり難易度は変わらなかったんじゃないかな~と思います。