模試作問から推察する「事例の作り方」
こんにちは。ぶらんちです。ちょっと手首を骨折(正確には骨挫傷)してしまい、更新が滞っておりました。右手だけの生活は本当に大変です…。
今日は新たな年度に向けて、「2次試験の事例がどのように作られているか想像してみよう」というお話です。
予備校の模試を作成しています
私は、ある通信予備校の中小企業診断士模擬試験(事例Ⅱ)を作成する仕事を請け負っています。たいだい3,000字程度の与件文と設問文、そして模範解答と解説を作成します。私の場合は年に1事例だけですが、毎年ゼロから作るので負荷は高いです。
また、採点や解説動画などには関わらないので、「私が作った問題は本当に世に出ているのか?」「クソ問としてディスられまくっているのではないか?」といった不安を抱えながら作ってます。まぁ、知らないほうがいい場合もありますけどね(汗)
問題構成は決まっている
予備校からのオーダーは「問題構成は前年度に寄せてくれ」です。例えば前年5問構成で、かつストレートに知識を問う問題が1問出た場合は、同じ構成にしてほしい、ということです。設問(1)(2)までは一緒でなくてもよいのですが、なんとなく合わせます。
事例企業の業界・業種は自由
事例企業の業界・業種に制約はありません。さすがにそこまで前年度に合わせてしまうと、問題も作りづらいし、受験生側からしても「本試験とほとんど似てるな」となり活用しづらいです。
私の場合は、まず自分の支援経験を基に、B社のイメージを構築します。その後、前年度の本試験で問われたことなどから設問文をつくり、再度B社のディテールを細かくしていきます。与件文文と設問文の相関関係を気にしつつ、それぞれをブラッシュアップさせていくのですが、この作業がメチャクチャ大変です。
設問文に合うようなエピソードを書き足すうちに、「B社長の行動に一貫性がないな」と感じたり、「この会社規模でこんなこと挑戦するか?」みたいな疑問が生まれたりして、書き直しの時間がどんどん増えていくんです。時にはB社の業界・業種を大幅に変えたり、どうしようもなくなって全部やり直し、なんてこともザラだったりします。
そうして出来上がったB社は、もはや実際に支援した企業とは似ても似つかないのですが、まるで自分の顧問先かのような愛着が湧きます。
このB社長って失敗ばっかしてるじゃん笑
うるさい!B社長だって頑張ってるんだ!
与件文に必ずヒントを盛り込む
あともう一つ、「最悪、与件文の抜き出しでも回答が成立するようにしてください」と言われます。どんな業界・職種の受験生がチャレンジしても、与件文の中の情報だけで回答できるようにする必要があります。具体的には、一次試験のために勉強しているであろう知識(SWOT分析や5Sなど)は、特に説明なく使ってもよいのですが、業界の慣習を知らないと回答に辿り着けないものはNGです。
ネイルサロンとは、ネイル化粧品を用いて手および足の爪にネイルケア、ネイル
アートなどを施すサービスを行う店舗を指す。一般にネイルサロンの主力サービスは、ジェルネイルである( 4 ページの図 2 参照)。ジェルネイルでは、ジェルと呼ばれる粘液状の合成樹脂を爪に塗り、LED ライトもしくは UV(紫外線)ライトを数十秒から 1 分程度照射してジェルを固める。この爪にジェルを塗る作業と照射を繰り返し、ネイルを完成させる。おおむね両手で平均 1 時間半の時間を要する(リムーブもしくはオフと呼ばれるジェルネイルの取り外しを含める場合は平均 2 時間程度である)。サービスを提供する際に顧客の要望を聞き、予算に基づき、要望を具体化する。ただし、言葉で伝えるのが難しいという顧客もおり、好きな絵柄や SNS 上のネイル写真を持参する場合も多くなっている。また B 社の価格体系は表のようになっている( 4 ページ参照)。
令和元年度事例ⅡのB社はネイルサロンでした。私も受験生の一人だったのですが、全く馴染みのない業界だったので最初は度肝を抜かれました。ただ、与件文には業界の特長やB社を取り巻く環境が事細かく記載されており、ジェルネイルの写真も示されていたりして、解くのにはあまり支障を感じませんでした。
模試作成においても、「どんな仕事なのか」「回答に必要な業界特性や慣習」は与件文を読めば分かるよう配慮が求められます。
本試験に置き換えると…?
経済産業省・中小企業庁の意向が盛り込まれる
ここからは想像ですが、本試験の事例作成においても同様の手続きが踏まれていると思われます。
模試の作成では「前年度に問題構成を寄せてほしい」という予備校のオーダーに従うことになりますが、本試験では経済産業省・中小企業庁からのオーダーに従って作問されていると考えられます。近年「本業がコロナ禍で低迷し、新たな事業を始める(事業再構築)」というストーリーが多いのも、各省庁の意向に沿っていると思われます。
与件・設問に必ずヒントがある
事例企業の取り巻く環境などは与件文を読めば分かるように作られています。なので、たとえ自分の得意な業界・業種が取り上げられたとしても、与件文からは外れないように回答することを意識しましょう。
先に紹介した令和2年度事例Ⅱでのエピソードなのですが、受験生仲間の中で話題に上がったのが価格設定が高すぎるということでした。ある女性の受験生は「基本料金で7,000円も払っているのに、アートオプションなんて頼まない。”オプションをおすすめして単価アップ”の提案はリスクが高すぎる」として、違う回答をしたとのことです。
ただ、出題者が考えてほしかったのは、おそらくそこじゃないです。男性受験生の多くはジェルネイルの相場なんて知らないですからね。文脈からすれば「来客数増が難しいなら単価アップだな」という基本的な診断方針が立てられるかが設問の主旨だったと思います。
その方が当年合格したかは定かではありませんが、自分がよく知っている業界・業種ほど気をつけたいですね。
まとめ
如何でしたでしょうか?
ちなみに私の場合、模試を1事例作成するのに1ヵ月半かかります。模試をどう扱おうと受験生の自由ですが、出来れば「点数を見て終わり」ではなく、解答解説を読んで出来なかった点を整理するなど、活用しつくしていただきたいなと思います。